1125th
太宰府天満宮 仮殿のイメージ

〈仮殿について〉

期間限定で天神さまが過ごされる
特別な仮殿

設計を担当した
建築家・藤本壮介氏のお話

約3年間に亘る御本殿の改修にあたり、御神霊(おみたま)が御本殿からお遷りになる場所として、特別な仮殿が建てられました。建築家である藤本壮介氏に、設計に込めた思いをお伺いしました。

太宰府天満宮 仮殿のイメージ

1,100年を越える
歴史へのリスペクトと、
未来のビジョンを表現した仮殿を

太宰府天満宮 仮殿のイメージ 太宰府天満宮 仮殿のイメージ

出発点は、屋根と緑

太宰府天満宮にうかがい、天神の杜の緑がとても豊かであること、御本殿の屋根が大きくて美しいことが強く印象に残りました。プロジェクトの過程で様々な案を試行錯誤しましたが、最終的に最初の直感に立ち戻った形です。

こちらには、梅が菅原道真公を慕って、一夜にして京都から飛んできたという伝説が伝えられていますが、この場所に身を置くとリアリティを持って感じられます。屋根の上に草木が浮かんでいる様子は、周りの自然と調和しながら新しい風景になりそうだと考えました。

太宰府天満宮 仮殿のイメージ 太宰府天満宮 仮殿のイメージ

神様と自然と人間が、
ゆるやかに繋がる

神社という空間の、開かれていながら、なにかによって外界と区切られている感じに興味を持ち、それを設計にも取り込んでいます。

参拝は、太鼓橋を渡るところから始まります。一つの橋を越えるごとに、一つ境界を越える。境界を通り抜けながら、最後に楼門をくぐると、明るく輝くような存在が見えてくる。それが仮殿で、屋根の上の緑と斎場のある空間で構成されています。建物の軒(のき)をぎりぎりまで低くして、ここでも境界を越える感覚を味わいつつ仮殿の中に入ると、壁で囲われているわけではないにも関わらず、不思議とふと静寂を感じていただけると思います。ここが天神さまと向かい合う場所で、あえて黒一色に統一しています。そして見上げると屋根にはトップライトが設けられており、ここで再び外と通じ自然を感じることができます。

歴史の継承の、その先で

仮殿を設計させていただく過程で、これからの建築が向かう方向の予感のようなものがありました。それは、「歴史に繋がりながら未来を志向すること」。そしてそれが、こんなにも自由であり得るということに気づき、改めて自分自身驚きました。この場所に初めて立った時に、とても太刀打ちできないという気持ちになったことを覚えています。自分の力を超えているなと感じたのです。しかし、実際に建ち上がったものを前にすると、この仮殿は3年間の期間限定でいずれ解かれますが、今ここに建築があるからこそ感じられるものがあるようにも思います。

既に屋根の上の木々に、鳥たちがやってきていると教えていただきました。屋根の上では、よそから飛んできた種が芽吹くかもしれません。木々たちは、3年を過ぎた後は天神の杜に移されて生き続けます。場所そのものの包容力に、生物全体が受け入れてもらっているようですよね。

遷座祭を経て、仮殿に道真公が遷られました。神職さんたちが神事を行い、参拝のみなさんがおいでになることで、空間として完成したのを感じ、とても嬉しく思います。

藤本壮介
(c) David Vintiner

藤本壮介

1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ブラン)に続き、2015、2017、2018年にもヨーロッパ各国の国際設計競技にて最優秀賞を受賞。国内では、2025年日本国際博覧会の会場デザインプロデューサーに就任。2021年には飛騨市のCo-Innovation University(仮称)キャンパスの設計者に選定される。

その他のお話